「こんにちは」はどうして「こんにちは」って言うの?

公開:2026-08-15 更新:2026-08-15 読了 約5分

図解

1 こんにちは 「今日は…」と続けた文のあとが省略されて残ったとされる 2 こんばんは 「今晩は…」の文が同じように短くなったなかま 3 さようなら 「左様ならば」という接続の言葉に由来するとされる 4 おはようございます 「ございます」を付けられる点で、上の二つと作りが異なる

図解:問いを6ステップで読みとく流れ(自動生成)

「今日は…」と続けたあいさつの文の、あとが省略されて残った形だから。

毎日つかう「こんにちは」。じつはこの言葉、もとは文のとちゅうで切れた形なのです。あいさつの言葉には、生まれた理由がちゃんとあります。

むかしは「今日こんにちは、ごきげんいかがですか」のような文であいさつをしていました。それがだんだん、あとの部分を言わずに「今日は」だけで止めるようになりました。そして、あいさつの言葉として一人立ちした、と考えられています。文の前半だけがのこって、一つの言葉になったのです。

そう考えると、「は」のなぞもとけます。この「は」は、「空は青い」の「は」と同じ、文の主題を表す「は」なのです。「きれいだわ」の「わ」とは、べつのなかまです。だから書くときも、「こんにちわ」ではなく「こんにちは」と書きます。国の目安である「現代仮名遣げんだいかなづかい」にも、例としてのっています。

夜の「こんばんは」も、「今晩こんばんは」で始まる文が同じように短くなったなかまです。朝の「おはよう」には「ございます」を付けられるのに、「こんにちは」には付けられません。ふしぎに思ったら、そこにも言葉の歴史がかくれています。あしたあいさつをするときは、かくれた続きを想像そうぞうしてみるのも楽しいですね。

「こんにちは」の「は」は、終助詞の「わ」ではなく、主題を示す係助詞の「は」だ。『日本国語大辞典』は、「今日は…」と続けた挨拶の下の部分が省略されたものと説明している。文の前半だけが化石のように残り、一語のあいさつへ姿を変えたのだ。同じ構造は「こんばんは」にもあてはまる。興味深いのは、能楽の伝承に「コンニッタ」という古い発音が残っていることで、長いあいさつ文の冒頭近くにこの言葉が現れていた痕跡とされる。表記の側にも決着がある。現代仮名遣いは「助詞の『は』は、『は』と書く」と定め、その例として「こんにちは」「こんばんは」を挙げているのだ。なお、「おはよう」には「ございます」を付けられるのに「こんにちは」には付けられないのはなぜか、という問いは国立国語研究所編の敬語の解説書でも取り上げられている。あいさつ一つにも、日本語の文法と歴史が折りたたまれているのである。

仕組みの科学

「こんにちは」を文法の目で分解すると、「今日」という名詞に係助詞「は」が付いた形である。係助詞「は」の仕事は、文の主題を示すことだ。「空は青い」と言えば、聞き手は「空について話すのだな」と受け取る。「今日は…」も本来は同じで、「今日について言えば」と話題を差し出し、そのあとに天気や体調をたずねる言葉が続く構えだった。ところが、あとに続く部分が省略されて前半だけが残り、あいさつの決まり文句として独立した。言葉のあとの部分を省くことは「下略」と呼ばれる。下略で生まれた語は、もとの文法の痕跡を体の中に残す。「こんにちは」が「わ」ではなく「は」で終わるのは、まさにその痕跡である。一方、「きれいだわ」「来るわ来るわ」の「わ」は文末で気持ちを表す使い方で、現代仮名遣いでも「わ」と書くものとして整理されており、助詞の「は」とは別のグループに属する。つまり「こんにちは」の表記問題は、語の成り立ちを知れば、ひとりでに答えの出る問題なのだ。

歴史と発見

この語の来歴を伝える手がかりのひとつが、古典芸能の中に残っている。国立国語研究所の解説によれば、能楽の伝承には「コンニッタ」という古い発音が残り、それは単独のあいさつ語としてではなく、長いあいさつの文の冒頭近くに現れていたという。あいさつがまだ「文」だった時代の姿を、舞台芸能が保存してきたわけだ。辞書の記述も同じ方向を指す。『日本国語大辞典』は「こんにちは」を、「今日は…」と続けた挨拶の下の部分が省略されたものと説明する。そして表記の歴史では、内閣告示「現代仮名遣い」が大きな節目となった。この告示は「助詞の『は』は、『は』と書く」という原則を掲げ、例として「こんにちは」「こんばんは」を明記した。日々のあいさつが国の告示の例文に採用されたのは、「こんにちわ」と書きたくなる人がそれだけ多かった証拠でもある。図書館のレファレンスサービスには今もこの表記についての質問が寄せられ、司書が辞書や告示を典拠に回答した記録が公開されている。言葉の疑問が、辞書と告示と図書館の連携で解かれていく様子そのものも興味深い。

もう一歩先

文の一部が切り取られてあいさつになる、という作り方は、「こんにちは」だけの特例ではない。別れの「さようなら」は「左様ならば」という接続の言葉に由来するとされ、やはり文の途中が語として独立した形だ。食事の「いただきます」や電話の「もしもし」など、日本語のあいさつには、もとの文脈から切り出されて定着した言葉が多い。こうした語は、意味を頭で考えるより先に、場面とセットで体に入っていく。だからこそ、もとの形を知ると新鮮な驚きがある。一方で、表記の世界では規範と実態のずれも観察されている。国立国語研究所の解説は、くだけた場面で「こんにちわ」と書く人がいる現代の使用状況にもふれている。規範としては助詞の「は」だが、話し言葉の感覚をそのまま写した表記が広がる様子は、仮名遣いが今も生きて動いていることを示す。あいさつの語源をたどることは、単なる雑学ではない。言葉が文から生まれ、書き方の決まりと揺れの中で暮らしている現場を、いちばん身近な素材で観察することなのだ。

🌱 ためしてみよう!3択クイズ

本文をよんでこたえてみよう。タップでせいかいがでるよ。

Q1. 「こんにちは」の「は」は、どれと同じなかま?
こたえ:「空は青い」の「は」
「こんにちは」の「は」は、文の主題を表す助詞の「は」です。「今日は…」という文の一部だったなごりなので、「わ」ではなく「は」と書きます。国の目安である現代仮名遣いにも、例としてのっています。「きれいだわ」の「わ」は、べつのなかまです。
Q2. 「こんにちは」は、もともとどんな形だった?
こたえ:長いあいさつの文の前半
「今日は、ごきげんいかがですか」のように続く、長いあいさつの文がもとの形と考えられています。あとの部分がだんだん省略されて、前半の「今日は」だけがあいさつの言葉として残りました。文の一部が一つの言葉になった、めずらしい生まれ方です。
Q3. 同じ生まれ方をした、夜のあいさつはどれ?
こたえ:こんばんは
「こんばんは」は「今晩は…」と続けた文の、あとの部分が省略されてできたとされます。「こんにちは」と同じ作りのなかまで、終わりが「は」になっているのも同じ理由からです。二つ並べると、そっくりな形をしていることがわかりますね。

👤 大人のちょっとした雑学

能楽に残る「コンニッタ」

能楽の伝承には、「こんにちは」の古い発音とされる「コンニッタ」が残る。単独のあいさつではなく、長いあいさつ文の冒頭近くに現れていたといい、語になる前の「文だった時代」の姿をとどめている。

内閣告示に載るあいさつ

現代仮名遣いの本文には、助詞の「は」の例として「こんにちは」「こんばんは」が明記されている。毎日のあいさつが告示の例文に並ぶのは、それだけ「わ」と書きたくなる人が多い証拠ともいえる。

「わ」と書く人々の実態

国立国語研究所の解説は、くだけた場面で「こんにちわ」と書く人がいる現代の使用状況にもふれている。規範は「は」のままだが、話し言葉の感覚を写す表記のゆれは、仮名遣いが生きて動いている証でもある。

🔬 とことん深掘り:読書ガイド

読み順ガイド(やさしい→専門)

  1. 日本語の歴史(山口仲美)
    話し言葉の変遷を通史でつかむ入口。あいさつの変化を大きな流れの中に置ける。
  2. 敬語(菊地康人)
    あいさつと敬語の体系の関係を理論的に整理する段階で読む定番の概説書。
  3. 日本国語大辞典(小学館)
    「こんにちは」の語誌・下略の記述を、原典として自分の目で確認するために引く。

さらに進む方向

  • 語用論(あいさつが会話の中で果たす働きの分析)
  • 日本語史(係助詞「は」の主題表示機能の歴史的研究)
  • 社会言語学(表記のゆれと規範意識の実態調査)

もっと詳しく:くらべてみる

  1. こんにちは
    「今日は…」と続けた文のあとが省略されて残ったとされる
  2. こんばんは
    「今晩は…」の文が同じように短くなったなかま
  3. さようなら
    「左様ならば」という接続の言葉に由来するとされる
  4. おはようございます
    「ございます」を付けられる点で、上の二つと作りが異なる

ことばのメモ

係助詞
主題などを示す助詞のなかま
下略
言葉のあとの部分を省くこと
現代仮名遣い
かなの書き方を示す国の目安
能楽
日本の古典芸能のひとつ
終助詞
文の終わりに付く助詞

よくある質問

「こんにちわ」と書くのはまちがいなの?
現代仮名遣いでは、助詞の「は」は「は」と書くと定められ、例に「こんにちは」「こんばんは」が挙げられています。公の文章では「は」と書くのが標準です。
「こんばんは」も同じ成り立ちなの?
はい。「今晩は…」と続けたあいさつの文の、あとの部分が省略されて残った形とされます。「は」が助詞である点も同じで、表記の例にも並んで載っています。
省略された続きは、どんな言葉だったの?
決まった一文が残っているわけではありません。「今日は、ごきげんいかがですか」のように、相手の様子を気づかう言葉が続いていたと考えられています。
「おはよう」に「ございます」を付けられるのはなぜ?
「おはようございます」と「こんにちは」では言葉の成り立ちが異なります。なぜ片方だけ丁寧にできるのかという問いは、国立国語研究所編の敬語の解説書でも取り上げられています。

学びのタネ

この問いに関連する本・実験・サービスのご紹介です。

家でできること

  • 一日のあいさつをメモして、「もとはどんな文だったのかな」と続きを想像してみよう。家族と答え合わせも楽しい。
  • 「さようなら」「いただきます」など、ほかのあいさつの成り立ちを図書館の本で調べてみよう。

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出典・参考文献

  1. 国立国語研究所 ことば研究館「こんにちは」 参照 2026-08-15
  2. 国立国会図書館 レファレンス協同データベース「こんにちは」「こんばんは」は、「は」と「わ」どちらが正しいか 参照 2026-08-15
  3. 国立国会図書館 レファレンス協同データベース「おはようございます」の「ございます」の用法について 参照 2026-08-15
  4. 文化庁現代仮名遣い 本文 第2(表記の慣習による特例) 参照 2026-08-15

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