図解
図解:問いを6ステップで読みとく流れ(自動生成)
もとは「めったにない」という意味の古いことばだよ。
「ありがとう」ということばは、じつはとても古いことばで、もとは「有り難し」という形でした。「有り難し」を今のことばに直すと、「あることがむずかしい」、つまり「めったにない」という意味です。
むかしの人は、めったにないほどうれしいことや、思いがけずやさしくされたとき、この「ありがたし」ということばを使いました。たとえば、たいへんな時に助けてもらったとき、その人がしてくれたことは当たり前ではなく、めったにない、貴重なことだと感じたのです。
時代がたつにつれて、この気持ちがだんだんと「感謝の気持ち」に変わっていきました。だれかがしてくれたことは、当たり前ではなくて「めったにない、貴重なこと」だから、それに気づいたときに「ありがとう」と言うようになったのです。
だから「ありがとう」の中には、「あなたがしてくれたことは当たり前ではないよ」「めったにないことをしてくれてうれしいよ」という気持ちが、こっそりかくれています。ふだん何気なく使っていることばですが、本当の意味を知ると、少しだけていねいに口にしたくなりますね。日本語には、こんなふうに古い意味がかくれていることばがたくさんあります。
「ありがとう」は形容詞「有り難し(ありがたし)」の連用形「有り難く」がウ音便化して生まれた語だ。文字通り「有ることが難しい」つまり「めったにない・貴重だ」を意味する形容詞で、平安期の文献にはすでに登場する。中世に入り、仏の慈悲や神仏の恵みを「めったにない、貴重な救い」として受けとめる宗教語彙として広がり、その後、他者からの厚意に対する感謝の言葉として定着した。ちなみに一般庶民に感謝表現として広く根付いたのは近世以降、日常挨拶として完全に定着したのは明治以降とされる。ポルトガル語「obrigado」由来説が有名だが、これは俗説である――「ありがたし」の用例はポルトガル人との接触より数百年前から日本語に存在しており、時代的に成立しない。国立国会図書館のレファレンス協同データベースにも、同様の説明が公式に掲載されている。
仕組みの科学
「ありがとう」の語源をひもとくと、日本語の「音便(おんびん)」という現象に行き着く。もとの形は形容詞「有り難し(ありがたし)」で、これは「有り」+「難し」の複合語だ。「難し」は「〜することが困難だ、むずかしい」の意で、全体として「存在が難しい=めったにない・稀である」を意味した。
この形容詞の連用形「有り難く」に「ございます」や「存じます」などが続く形で使われるうちに、発音の便宜から「有り難く」が「ありがとう」へと変化した。これが「ウ音便」と呼ばれる音の変化で、「早く」→「はよう」、「よく」→「よう」なども同じ仕組みだ。国立国語研究所の解説によれば、日本語の敬語や挨拶語には、こうしたウ音便を経由した形が数多く見られる。
重要なのは、「ありがとう」がもともと感謝の意味ではなかったという点である。「めったにない・貴重だ」という価値評価の言葉が、そのめずらしさを「してもらった側の視点」から見ることで、次第に感謝の表現へと転化したのだ。言葉の意味が「客観的な評価」から「主観的な気持ち」へと移行する、これは言語学でいう意味変化の典型例のひとつでもある。
歴史と発見
「ありがたし」の用例は古く、平安時代の文献にすでに現れる。清少納言の『枕草子』の第七十二段には「ありがたきもの(めったにないもの)」として、姑にほめられる嫁、主人の悪口を言わない従者、抜け毛のない毛抜きなどが列挙されている。ここでは「めったにない・稀な」の意味で純粋に使われていて、感謝のニュアンスはまだない。
中世に入ると、仏教語彙としての用法が発達した。仏の慈悲や仏法に出会えることは「めったにないこと(有り難きこと)」であるという発想から、「有り難い」は宗教的な感動や感謝を表すようになる。仏教説話「盲亀浮木のたとえ」では、盲目の亀が大海で漂う一本の流木の穴に頭を入れる確率のように、人が仏法に出会えるのは奇跡的にまれなことだと説かれ、この「めったにない出会いへの感謝」の感覚が言葉に深く染み込んだ。
近世以降、意味がさらに広がって、宗教的な文脈を離れた一般的な感謝の意になっていく。国立国会図書館のレファレンス協同データベースによると、日常挨拶として一般大衆に完全に定着したのは明治時代以降とされる。それまでは階層や場面によって「かたじけない」「おおきに」「すまない」など、多様な感謝表現が並立していたのだ。
もう一歩先
「ありがとう」の語源にまつわる有名な俗説がある。ポルトガル語で「ありがとう」を意味する「obrigado(オブリガード)」が「ありがとう」の由来だ、というものだ。音がなんとなく似ているため、聞くと「なるほど!」と思ってしまうが、国語学的にははっきりと否定されている。
理由はシンプルで、「ありがたし」の用例は『枕草子』(平安時代・10世紀末〜11世紀初頭)にすでに存在する一方、ポルトガル人が種子島に来航して日本語との接触が始まったのは1543年、つまり16世紀半ばだからだ。500年以上も前から日本語にある言葉が、後から来た外来語を語源にすることは、時代的にありえない。国立国会図書館のレファレンス協同データベースにも同趣旨の説明が掲載されている。楽しい語呂合わせや面白いエピソードは大切だが、それを「事実」として広めてしまうと、本当の言葉の歴史が見えなくなる。俗説を「なるほど話」として楽しみつつ、根拠のある語源にたどり着く姿勢は、大人にとっても子どもにとっても大事な学びの態度だといえる。
「ありがとう」ということばの背景を知ると、何気なく口にするひと言に千年以上の時間の重みが宿っていることに気づく。「めったにない、貴重なこと」――そう思って口にすると、いつもの「ありがとう」が少しだけ違って聞こえてくるかもしれない。
もっと詳しく:歴史と時系列
- 平安時代『枕草子』に「ありがたきもの=めったにないもの」の用例が登場
- 中世仏教語彙として「仏法に出会える有り難さ」が感謝の意味を帯びる
- 1543年ポルトガル人が種子島に来航(オブリガード説が時代的に不可能な根拠)
- 近世(江戸期)宗教文脈を離れた一般的な感謝表現として庶民に広がる
- 明治以降日常挨拶として全国的に完全に定着
ことばのメモ
- 有り難し
- めったにないという意味の古語
- ウ音便
- 「く」の音が「う」に変わる日本語の音変化
- 俗説
- 広く信じられているが、根拠のない説
- 連用形
- 動詞や形容詞が下の言葉につながるときの形
- レファレンス
- 図書館の調べもの案内サービス
よくある質問
「ありがとう」と「ありがたい」は同じことば?
ポルトガル語のオブリガード説はなぜ広まったの?
「かたじけない」も感謝のことば?
外国語で「ありがとう」に似た意味の言葉はある?
学びのタネ
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家でできること
- 『枕草子』第七十二段「ありがたきもの」を図書館や教科書ガイドで探して、当時の「めったにないもの」がどんなものだったか調べてみよう。
- 家族や友だちが「ありがとう」と言う場面を1日メモして、それぞれ「何がめったにないのか」を考えてみよう。
- 国語の教科書や辞典で、他のウ音便のことば(「はやう」「よう」など)をさがして一覧にしてみよう。
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出典・参考文献
- 国立国会図書館 レファレンス協同データベースなぜ「ありがとう」という言葉が使われるようになったのか?語源について知りたい。 参照 2026-07-11
- 国立国会図書館 レファレンス協同データベース「ありがとう」の語源を知りたい。 参照 2026-07-11
- 語源由来辞典有難う/ありがとう 参照 2026-07-11
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