寒いと体がふるえるのはどうして?

公開:2026-10-15 更新:2026-10-15 読了 約6分

図解

1 ① 寒さを感じる 皮膚からの冷たさの情報が、脳の体温調節中枢(視索前野)に 届く 2 ② 血管を調節 皮膚の血流を減らして、体表面から逃げる熱を減らす 3 ③ 非ふるえ熱産生 交感神経を介して、褐色脂肪組織が熱を作る 4 ④ まだ足りない それでも寒いと、視索前野の抑制が解除されて信号が流れる 5 ⑤ 指令が伝わる 視床下部背内側核と淡蒼縫線核を経て、脊髄の運動神経へ 6 ⑥ ふるえ熱産生 骨格筋が小きざみに震えて熱を作り、体温を守る

図解:問いを6ステップで読みとく流れ(自動生成)

筋肉を小きざみに動かして熱を作り、体温が下がるのをふせぐから。

寒さむい日ひに外そとに出でると、体からだがぶるぶるとふるえることがあります。歯はがカチカチ鳴なることもありますね。じつはこのふるえは、体からだが自分じぶんで熱ねつを作つくっている合図あいずなのです。

人ひとの体からだは、体温たいおんをいつもほぼ同おなじに保たもっています。寒さむいところでは体からだから熱ねつがにげていくので、何なにもしないと体温たいおんが下さがってしまいます。そこで脳のうは、筋肉きんにくに「小こきざみに動うごけ」と命令めいれいを出だします。筋肉きんにくが動うごくと熱ねつが出でるので、体からだをふるわせて熱ねつを作つくるのです。

走はしったあとに体からだがあたたかくなるのと同おなじで、筋肉きんにくは動うごくと熱ねつを出だします。ふるえは、自分じぶんで決きめなくても勝手かってに起おこる、体からだの自動じどうストーブのようなものです。

じつは、ふるえる前まえにも体からだは熱ねつを作つくっています。褐色脂肪かっしょくしぼうという特別とくべつなしぼうが、体からだをふるわせずに熱ねつを出だしているのです。それでも足たりないほど寒さむいときに、ふるえが始はじまると考かんがえられています。

夏なつに汗あせをかいて体からだを冷ひやすのと、冬ふゆにふるえて体からだをあたためるのは、どちらも体温たいおんを守まもるための働はたらきです。体からだは、寒さむさにも暑あつさにも負まけないように、いつもがんばっているのですね。

ふるえは、体温を守るための熱産生の仕組みのひとつだ。京都大学の中村和弘らの研究によれば、人間を含めた多くの恒温動物は、寒冷環境中では体温が低下してしまわないように、脳からの指令によって骨格筋を震えさせることで熱を積極的に産生する。これが「ふるえ熱産生」で、感染による発熱時にも生じて体温上昇に寄与する。

生理学研究所の温度生物学ハンドブックによれば、寒い環境で体が熱を作る適応熱産生には、ふるえ熱産生と非ふるえ熱産生の2種類がある。ふるえ熱産生は体性運動神経を介した骨格筋のふるえによるもの、非ふるえ熱産生は主に交感神経を介した代謝の亢進によるもので、後者を担う器官として褐色脂肪組織がよく知られている。褐色脂肪組織は小動物や乳幼児の体温維持だけでなく、成人の体温・代謝調節にも重要であることが分かってきたという。

仕組みの科学

動物が体温を保つ仕組みは、大きく2つに分けられる。生理学研究所の温度生物学ハンドブックで中村和弘は、体温調節の様式には自律性体温調節と行動性体温調節があり、前者は不随意の自律生理反応を通じた体温調節、後者は随意の本能行動を通じた体温調節を指すと説明している。自律性体温調節は恒温動物では特に重要で、熱の放散と産生を調節することで体温を制御する。室温近辺では、熱の放射・伝導・対流による非蒸散性熱放散だけで体温を維持でき、この環境温度の範囲を温熱的中性域と呼ぶ。脳は交感神経を通じて皮膚の血流量を常時調節し、体表面から逃げる熱の量を変えている。中性域より高温の環境では、ヒトは発汗によって気化熱で体熱を放散する。逆に中性域より低温の環境では適応熱産生を起こし、体内で積極的に熱を産生して体温の低下を防ぐ。適応熱産生はふるえ熱産生と非ふるえ熱産生に分類される。ふるえ熱産生は体性運動神経を介した骨格筋のふるえを通じた熱産生反応であり、非ふるえ熱産生は主に交感神経を介した代謝の亢進による熱産生反応だ。非ふるえ熱産生を行う器官としては褐色脂肪組織がよく知られ、ネズミなどの小動物やヒトの乳幼児の体温維持に機能するだけでなく、最近では成人の体温・代謝調節にも重要であることが分かってきた。寒いときのふるえは、こうした体温調節の仕組みの中で、筋肉を使って熱を作る反応なのである。

歴史と発見

ふるえは誰もが経験する身近な反応だが、それを起こす脳の神経回路は長く分かっていなかった。京都大学は2011年5月31日、中村和弘(当時、学際融合教育研究推進センター特定助教)と米国オレゴン健康科学大学のショーン・モリソンによる研究グループが、寒冷環境下や発熱時に生じるふるえを起こす脳神経回路の仕組みを解明したと発表した。成果は英国の学術雑誌 The Journal of Physiology のオンライン速報版に2011年5月24日付で公開された。研究グループはラットを用いた実験で、皮膚を冷やすことや脳内に発熱物質を投与することで生じる骨格筋のふるえが、脳内の視床下部背内側核あるいは延髄の淡蒼縫線核と呼ばれる部位の神経細胞の活動を抑制すると消失することを見いだした。また、皮膚冷却によるふるえは、脳内の体温調節中枢である視索前野の働きを阻害することによっても起こらなくなった。これらの結果は、ふるえを起こす指令の信号が、体温調節中枢の視索前野から視床下部背内側核および淡蒼縫線核を経て脊髄の運動神経へ伝えられ、骨格筋が震えることを示している。平常時は視索前野の神経細胞が視床下部背内側核を持続的に抑制しているが、皮膚からの冷たさの情報が視索前野に届くと、その抑制が解除されて信号が流れ出す。ふるえのスイッチは、脳の奥にある小さな領域の抑制と解除で入っていたのだ。

もう一歩先

京都大学の発表で興味深いのは、ふるえの神経経路が、同じグループがそれまでに明らかにしてきた褐色脂肪組織の非ふるえ熱産生を起こす神経経路と近接し、並行して存在していたことだ。通常、寒いときにはまず体温調節中枢からの神経経路が交感神経を介して、意識とは関係なく非ふるえ熱産生を起こして体温を維持する。それでもまだ多量の熱を作る必要があるほど寒いときには、ふるえの神経経路が働き出し、しゃべる、歩くといった随意運動を犠牲にしても骨格筋を震わせて熱を作るように働くと考えられている。寒さで歯がカチカチ鳴ってうまく話せなくなるのは、生命の維持を優先した体の判断というわけだ。熱を作ることはエネルギーの使い方の問題でもある。生理学研究所のハンドブックで山田哲也は、個体の体重はエネルギー摂取とエネルギー消費のバランスで規定され、エネルギー消費は基礎代謝60%、適応性熱産生10%、身体活動30%からなると説明している。適応性熱産生には寒冷誘発性熱産生と食事誘発性熱産生があり、環境温度の低下に対応して体温を保つ寒冷誘発性熱産生は、骨格筋によるふるえ熱産生と褐色脂肪組織による非ふるえ熱産生によって担われている。つまり寒い日にふるえて作った熱は、食べ物から得たエネルギーを使って作られている。褐色脂肪組織が成人の代謝調節にも重要だと分かってきた今、研究はさらに続いている。

🌱 ためしてみよう!3択クイズ

本文をよんでこたえてみよう。タップでせいかいがでるよ。

Q1. 寒いときに体がふるえるのは、なんのため?
こたえ:筋肉を動かして熱を作るため
寒いと、脳が筋肉に小きざみに動くよう命令を出します。筋肉が動くと熱が出るので、体温が下がるのをふせげるのです。これを「ふるえ熱産生」といいます。
Q2. ふるえは、だれが命令して起こる?
こたえ:脳
京都大学の研究で、ふるえの命令は脳の体温調節中枢から出て、脊髄の運動神経を通って筋肉に伝わることが分かりました。自分で決めなくても、脳が勝手に体を守ってくれているのです。
Q3. ふるえる前から熱を作っている、特別なしぼうの名前は?
こたえ:褐色脂肪
褐色脂肪は、体をふるわせずに熱を作る特別なしぼうです。寒いときはまず褐色脂肪が熱を作り、それでも足りないときにふるえが始まると考えられています。

👤 大人のちょっとした雑学

ふるえは「随意運動を犠牲にする」最終手段

京都大学の発表によれば、非ふるえ熱産生だけでは体温を維持できないほど寒くなると、ふるえの神経経路が働き出し、随意運動を阻害してでも骨格筋を震わせて熱を作る。寒さで話しにくくなるのはこのためだ。

発熱時のふるえも同じ回路

ふるえ熱産生は、感染による発熱時にも生じて体温上昇に寄与する。京都大学の研究では、脳内に発熱物質を投与して生じるふるえも、延髄の淡蒼縫線核の神経活動を抑えると消失した。

熱を作る燃料は食事から

生理学研究所のハンドブックによれば、エネルギー消費は基礎代謝60%・適応性熱産生10%・身体活動30%からなる。寒さに対応する寒冷誘発性熱産生は、この適応性熱産生の一部だ。

🔬 とことん深掘り:読書ガイド

読み順ガイド(やさしい→専門)

  1. 体のしくみの図鑑(児童向け・体温と血液の章)
    人の体温がほぼ一定に保たれていることと、汗やふるえがその調節に関わることを図でつかむ段階。暑さと寒さへの反応を対にして見ると分かりやすい。
  2. 生理学の入門書(体温調節の章)
    自律性体温調節と行動性体温調節、熱の放散と産生という枠組みを押さえる。ふるえ熱産生と非ふるえ熱産生の違いを、神経の種類とあわせて理解できる。
  3. 神経科学の教科書(自律神経系と視床下部の章)
    視索前野・視床下部・延髄といった部位の働きを学び、京都大学の研究で明らかになったふるえの神経経路を脳の全体像の中に位置づける。
  4. 褐色脂肪組織とエネルギー代謝に関する総説・研究論文
    非ふるえ熱産生の分子機構や、成人の代謝調節における褐色脂肪組織の役割を学ぶ。体温調節と代謝研究がどこで交わるのかが見えてくる。

さらに進む方向

  • 視索前野から骨格筋に至るふるえの神経回路を調べる神経生理学
  • 褐色脂肪組織の非ふるえ熱産生を担う分子機構の研究
  • 寒冷環境での熱産生とエネルギー代謝の関係を扱う代謝生理学
  • 発熱時の体温上昇に関わる脳内の仕組みを探る研究

もっと詳しく:しくみのながれ

  1. ① 寒さを感じる
    皮膚からの冷たさの情報が、脳の体温調節中枢(視索前野)に届く
  2. ② 血管を調節
    皮膚の血流を減らして、体表面から逃げる熱を減らす
  3. ③ 非ふるえ熱産生
    交感神経を介して、褐色脂肪組織が熱を作る
  4. ④ まだ足りない
    それでも寒いと、視索前野の抑制が解除されて信号が流れる
  5. ⑤ 指令が伝わる
    視床下部背内側核と淡蒼縫線核を経て、脊髄の運動神経へ
  6. ⑥ ふるえ熱産生
    骨格筋が小きざみに震えて熱を作り、体温を守る

ことばのメモ

ふるえ熱産生
筋肉を小きざみに動かして熱を作ること
非ふるえ熱産生
ふるえずに、代謝を高めて熱を作ること
褐色脂肪組織
熱を作るのが得意な特別なしぼう
骨格筋
体を動かすときに使う筋肉
視索前野
脳にある体温調節の中枢

よくある質問

ふるえは自分で止められますか?
ふるえは、脳からの指令で骨格筋が震える不随意の反応です。生理学研究所のハンドブックでは、こうした意識によらない自律生理反応を通じた体温調節を自律性体温調節と呼んでいます。
ふるえる前から体は熱を作っているの?
京都大学の発表によれば、寒いときはまず交感神経を介して褐色脂肪組織で非ふるえ熱産生が起こります。それでも足りないほど寒いときに、ふるえの神経経路が働き出すと考えられています。
赤ちゃんや小さな動物はどうやって寒さに耐えているの?
生理学研究所のハンドブックによれば、褐色脂肪組織による非ふるえ熱産生は、ネズミなどの小動物やヒトの乳幼児の体温維持に機能しています。最近では成人の体温・代謝調節にも重要だと分かってきました。
汗をかくのとふるえるのは、どう関係しているの?
どちらも自律性体温調節の反応です。暑いときは発汗の気化熱で体熱を放散し、寒いときは適応熱産生で体内に熱を作ります。熱の放散と産生を調節することで、体温を一定に保っています。

学びのタネ

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家でできること

  • 寒い日に外に出て、ふるえが始まるまでの時間と、どこがふるえるかを記録してみよう。家に入ったあと、どのくらいで止まるかも調べてみよう。
  • 手のひらをこすり合わせたり、その場でかけ足をしたりして、筋肉を動かすと体があたたまることをたしかめてみよう。

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出典・参考文献

  1. 京都大学寒さによって「ふるえ」を起こす脳の仕組みを解明(2011年5月31日) 参照 2026-10-15
  2. 生理学研究所(温度生物学ハンドブック)自律性体温調節(Autonomous thermoregulation)中村和弘 参照 2026-10-15
  3. 生理学研究所(温度生物学ハンドブック)摂食と体温調節(Food intake and thermal regulation)山田哲也 参照 2026-10-15

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