図解
図解:問いを6ステップで読みとく流れ(自動生成)
体の中で使うエネルギーをぐっとへらし、体温も下げて冬をこすから。
寒い冬、クマやリスのなかまには、春まで眠ってすごす動物がいます。これが冬眠です。冬は食べものが少なく、体を温めるのにもたくさんのエネルギーがいります。そこで冬眠する動物は、体で使うエネルギーをぐっとへらして冬をこします。
冬眠するのは、リスやコウモリ、クマなどです。体の小さな動物ほど熱がにげやすいので、冬眠すると得をするのです。
小さな冬眠動物の心ぞうは、ふだん1分に400回ほど打ちます。深く眠っているときは、それが10回ほどになります。体温も10度より低くなります。それでも数日に1回は目をさまし、体温を37度ほどにもどします。
クマの冬眠は少しちがいます。体温は4〜6度ほどしか下がりません。そのかわり何か月も目をさまさずに眠りつづけます。食べず、水も飲まず、おしっこもしません。秋にドングリなどをたくさん食べて、体にためたしぼうを使うのです。
びっくりするのは、お母さんグマが冬眠のさいちゅうに赤ちゃんを産むことです。1月から2月ごろのことです。冬眠は、きびしい冬を生きぬくための作戦なのですね。
冬眠は「寒いから眠る」のではない。生理学研究所の温度生物学ハンドブックによれば、冬眠は全身の酸素消費量を自ら下げる能動的な低代謝であり、体温の低下はその結果として二次的に起こる現象なのだ。冬眠時の体重あたりの酸素消費量は、動物の大きさに関わらず0.03 ml/g/h程度にそろうという。小さな動物ほど体の表面から熱が逃げやすく、代謝を落とす利益が大きいため、冬眠動物の多くは1kg以下の哺乳類だ。
例外の大物がクマである。北海道大学の坪田敏男によれば、クマの体温は4〜6℃ほどしか下がらず、かつては「冬ごもり」と呼ばれていた。ところがクマは数か月のあいだ中途覚醒を一切せず、飲まず食わず排泄もせずに眠り続け、130日間の不動でも活動時の77%の筋力を保つ。浅いどころか、別の意味で驚異的な冬眠なのだ。
仕組みの科学
生理学研究所の温度生物学ハンドブックで砂川玄志郎は、冬眠と休眠を一部の哺乳類にみられる「能動的な低代謝状態」と説明している。酸素消費量が落ち、熱産生を含む代謝が抑えられることで、体温は二次的に下がる。続く期間によって分類され、数週間に及ぶものが冬眠、数日間のものが休眠だ。代表例は冬眠がリス・コウモリ・クマ、休眠がマウスである。こうした動物は四つの機能を備える。基礎代謝を下回る低代謝に耐える力、体温が外気温より数℃高い程度まで下がっても傷まない低温耐性、37℃前後に保たれる体温恒常性を一時的に抑える仕組み、そして最も代謝が低い状態から自力で熱を作って体温を戻す復温能だ。北海道大学低温科学研究所によれば、小型の冬眠動物は数か月の冬眠期間中、体温10℃以下の深冬眠と、37℃まで戻る中途覚醒を繰り返す。深冬眠中の心拍数は1分間に10回程度で、正常時の約400回から大きく落ちる。中途覚醒では、白色脂肪細胞から送られた脂肪酸を褐色脂肪組織で燃やす非ふるえ熱産生と、骨格筋のふるえによる熱産生で体温を戻す。なぜ一定の間隔で目覚めるのかは、まだ多くが謎のままだ。
歴史と発見
クマの冬の眠りは、かつて冬眠ではなく「冬ごもり」と呼ばれていた。体温をさほど下げず、いつでも目覚められるように見えたからだ。しかしその後の研究で、クマもシマリスやジリス、ハムスターなどと同じく、冬に体温と代謝を下げる冬眠状態にあることが分かった。坪田敏男の総説によれば、心拍数は毎分40〜50回から8〜10回に、代謝率は20〜50%にまで下がる。世界に現存する8種のクマのうち、冬眠することが明らかなのはホッキョクグマ、ヒグマ、ツキノワグマ、アメリカクロクマの4種だ。日本のヒグマとツキノワグマは11月下旬〜12月上旬に冬眠に入り、3月中旬〜5月上旬に目覚める。目覚める順番はオス、単独のメス、子連れのメスと決まっている。とりわけ驚かされるのが繁殖との関係である。メスは初夏に交尾したあと着床を遅らせ、冬眠に入るころに着床させる。約2か月で胎子の発育を終え、冬眠中間期の1月下旬〜2月上旬に出産し、冬眠の後半に子を育てる。ホッキョクグマではメスだけが出産と子育てのために冬眠するという。
もう一歩先
冬眠の研究は医学や宇宙への応用でも注目されている。北海道大学低温科学研究所によれば、ヒトやマウスが低温下で生存できるのはせいぜい数時間から2日程度だが、リスやシリアンハムスターなどの小型冬眠動物は、長い場合1週間程度の深冬眠でも生き延びる。同研究所は、この低温耐性の仕組みが分かれば臓器移植時の臓器保護に、長い不動状態でも筋肉が衰えにくい仕組みが分かれば寝たきりのときの筋萎縮を防ぐ方法に展開できる可能性があるとしている。クマは130日間の不動状態でも活動時の77%の筋力を保つと報告されており、ヒトでは同じ状態で10%しか維持できないという。また生理学研究所などの研究グループは2025年、マウスの脳にあるQニューロンを働かせて体温を23℃付近まで下げる人工冬眠モデルで、体温の低下そのものが全身の糖の使われ方を変え、体温を戻すと速やかに元に戻ることを示した。研究グループは、臓器移植時の低温保存や将来の宇宙での長期滞在への応用の可能性にも触れている。いずれもまだ研究段階であり、ヒトが冬眠できるようになったわけではない。
🌱 ためしてみよう!3択クイズ
本文をよんでこたえてみよう。タップでせいかいがでるよ。
Q1. 小さな冬眠動物が深く眠っているとき、心ぞうは1分間に何回ぐらい打つ?
Q2. クマが冬眠しているとき、体温はどれぐらい下がる?
クマの体温は4〜6度ほどしか下がりません。体が大きく、熱がにげにくいことなどが関係していると考えられています。そのかわり、何か月も目をさまさずに眠りつづけるのがクマの冬眠のとくちょうです。
Q3. お母さんグマが赤ちゃんを産むのはいつ?
お母さんグマは、冬眠のさいちゅうの1月から2月ごろに赤ちゃんを産みます。そして冬眠をつづけながら、巣あなの中で赤ちゃんを育てます。冬眠は、ただ眠るだけの時間ではないのですね。
👤 大人のちょっとした雑学
クマはかつて「冬ごもり」だった
体温をさほど下げず、いつでも目覚められるように見えたため、クマの冬の眠りはかつて冬眠と区別されていた。その後、体温や代謝を下げるシマリスやハムスターと同じ冬眠状態だと分かった。
冬眠中のクマは水を飲まない
坪田敏男によれば、クマは体脂肪を分解して得られる代謝水を使うため、数か月飲まなくても脱水しない。消化物は「止め糞」として直腸に詰め、冬眠中は排泄もしない。
酸素の使い方は体重1gあたりでそろう
生理学研究所のハンドブックによれば、冬眠時の体重あたりの酸素消費量は動物の大きさに関わらず0.03 ml/g/h程度で一定だという。小動物ほど代謝を落とす利益が大きい。
🔬 とことん深掘り:読書ガイド
読み順ガイド(やさしい→専門)
- 冬眠する動物の図鑑(児童向け・哺乳類の冬ごしの章)
クマ・リス・コウモリなど冬眠する動物の顔ぶれと、冬眠しない動物との違いをまず図でつかむ段階。冬ごしの多様さを知ると生理の話に入りやすい。 - 動物生理学の入門書(体温調節とエネルギー代謝の章)
恒温動物が37℃前後に体温を保つ仕組みと、基礎代謝の考え方を押さえる。冬眠がその恒常性を一時的に抑える現象だと理解できる。 - クマの生態学の専門書・総説
冬眠と繁殖、着床遅延、冬眠前の食欲亢進までを一続きで追う。坪田敏男の総説で見た事実を、野外研究の積み重ねの中に位置づけられる。 - 冬眠生物学の総説・研究論文集
深冬眠と中途覚醒の制御、低温耐性、筋萎縮耐性の分子機構を学ぶ。医学応用の議論がどこまで研究段階なのかを見極める目が育つ。
さらに進む方向
もっと詳しく:歴史と時系列
- 10〜11月ドングリなどを食べ、体重がおよそ30〜40%増える
- 11月下旬〜12月上旬冬眠に入る。妊娠したメスはこのころ着床する
- 1月下旬〜2月上旬冬眠中のメスが巣穴の中で出産する
- 冬眠の後半母グマが冬眠を続けながら子を育てる
- 3月中旬〜5月上旬オス、単独メス、子連れメスの順に目覚める
ことばのメモ
- 冬眠
- 数週間つづく、体の働きを落とした眠り
- 休眠
- 数日だけつづく、短い低代謝の状態
- 中途覚醒
- 冬眠中に時々起きて体温を戻すこと
- 褐色脂肪組織
- 熱を作るのが得意なしぼうの組織
- 着床遅延
- 受精卵が子宮につくのを遅らせること
よくある質問
クマは冬眠中にまったく起きないのですか?
冬眠中の動物はトイレに行かないの?
どんな動物が冬眠するのですか?
冬眠中はずっと同じ体温なの?
学びのタネ
この問いに関連する本・実験・サービスのご紹介です。
家でできること
- 自分の脈を1分間数えてみよう。深い冬眠中の小さな動物は、1分間に10回ほどしか心臓が打たないんだ。
- 図書館で冬眠する動物の図鑑を借りて、クマ・リス・コウモリの冬のこし方をくらべてみよう。
おとな向けに:新書・実用書PR
とことん深く:専門書・古典PR
読み放題・聴き放題PR
家でも教室でも、学びを深めるPR
※ 当サイトは Amazonアソシエイトおよび A8.net のアフィリエイトプログラムに参加しており、適格販売により収益を得ています。
出典・参考文献
- 生理学研究所(温度生物学ハンドブック)冬眠と休眠(Hibernation and daily torpor) 参照 2026-10-07
- 北海道大学(低温科学 81巻)クマ類の冬眠:繁殖との関係 参照 2026-10-07
- 北海道大学低温科学研究所なぜ冬眠研究か?(Why study hibernation?) 参照 2026-10-07
- 生理学研究所体温の低下が血糖代謝を制御する新たな仕組みを解明 参照 2026-10-07
出典・正確性ポリシー:詳しく読む
北海道大学低温科学研究所によれば、小さな冬眠動物の心ぞうは、ふだん1分間に400回ほど打ちます。深い冬眠のときは10回ほどにまで下がります。体で使うエネルギーをぐっとへらしているからです。