秋の虫はどうして鳴くの?

公開:2026-08-23 更新:2026-08-23 読了 約6分

図解

1 STEP 1 オスの前翅に鑢と摩擦片がそなわる 2 STEP 2 二つを擦り合わせて翅を振動させる 3 STEP 3 一回の擦りでシラブルが生まれる 4 STEP 4 シラブルが集まりチャープになる 5 STEP 5 誘引歌・求愛歌・闘争歌を使い分ける 6 STEP 6 気温が下がると周波数や節回しが変わる

図解:問いを6ステップで読みとく流れ(自動生成)

鳴くのはオスだけで、メスをよぶために羽をこすり合わせているから。

秋の夜、「リーンリーン」と虫の声が聞こえてきます。あれは口で歌っているのではありません。鳴いているのは、ほとんどがオスなのです。東京大学とうきょうだいがくの研究によると、オスの前ばねには、こまかいギザギザがならんでいます。これを「やすり」といいます。もう一方のはねには、そこにこすれる部分がついています。この二つをすばやくこすり合わせると、はねがふるえて音が出ます。この仕組みを摩擦器まさつきとよびます。一回こすって出た音を「シラブル」といいます。それがいくつも集まって「チャープ」という鳴き声になります。オスの声は一つではありません。メスをよぶ声、そばに来たメスにささやく声、ほかのオスとのあらそいに勝ったときの声があります。虫は変温動物へんおんどうぶつです。まわりの気温で、体の温度も変わってしまいます。だから気温が下がると、鳴き声の高さやテンポも変わります。スズムシは十五度より寒くなると鳴かなくなるといわれています。秋の虫の声は、気温がつくり出す音楽でもあるのです。今夜はどんな声が聞こえるでしょうか。

日本語には、秋の虫の声を写しとる言葉が驚くほど多い。リーンリーン、コロコロ、チンチロリン——それぞれが別の種を指し、聞き分けの文化は古くから成立していた。だが音の出どころまで知る人は意外に少ない。あの響きは口からではなく、前翅どうしの擦れによって生まれている。雄の翅にそなわった鑢状の構造と摩擦片が触れ合い、翅そのものが振動板になるのだ。しかも歌は用途別に複数ある。雌を招く歌、間近の雌へ向ける歌、他の雄を退けた直後の歌が打ち分けられる。そして忘れてはならないのが温度である。彼らは変温動物であり、体温は外気に委ねられている。図書館に集積された飼育記録には、十五度を下回ると沈黙するという観察が残されている。晩秋に声が細く間延びして聞こえるのは、気のせいではない。その夜の空気の冷たさが、そのまま音程とテンポに刻まれているのだ。

仕組みの科学

鳴く虫の音源は、体の外側にある。東京大学先端科学技術研究センターが公開する解説によれば、雄コオロギの前翅には、クチクラが特殊化してできた鑢と、これに接する摩擦片からなる摩擦器がそなわっている。雄はこの摩擦器を擦り合わせることで鳴き声を発する。声帯で空気を震わせる脊椎動物とはまったく異なる、体表構造そのものを楽器に変えた発音方式である。音の単位も明確に定義されている。摩擦器が一回擦り合わさって発音したものはシラブルと呼ばれ、いくつかのシラブルが組み合わさってチャープを構成する。つまり私たちが「コロコロ」「リーンリーン」と聞き取っているひとまとまりの音は、複数のシラブルが束ねられた構造体なのだ。さらに雄の歌には役割の違いがある。雌に対して発する誘引歌と求愛歌に加えて、別の雄と喧嘩して勝った後に発する闘争歌が知られている。同じ摩擦器から、目的の異なる複数の信号が打ち分けられている点に、この発音システムの奥行きがある。鳴くのが雄に限られるのは、摩擦器という構造そのものが雄にそなわるためであり、鳴き声は性を識別する手がかりにもなっている。

歴史と発見

日本では、鳴く虫の声は古くから鑑賞の対象とされ、飼育と観察の蓄積が民間にも研究にも残されてきた。国立国会図書館のレファレンス協同データベースには、「スズムシ・コオロギは気温により鳴き方が違う」という疑問に対する調査記録が収録されている。そこで参照された資料のひとつ『鈴虫と飼育の手引』には、十五度以下になると鳴かないという記述がある。また『鳴く虫を楽しむ』には、虫のような変温動物は気温によって体温が変わり、それに伴って鳴き声も変わるとあり、変化するものとして周波数、翅を震わす周期、節回しの三点が挙げられている。『鳴く虫の観察と研究』には「鳴き声は気温で変わる」という章が置かれている。いずれも飼育者と研究者が長年の観察を突き合わせて言語化してきた成果だ。同データベースには、スズムシがどうやって鳴くのかを子ども向けに解説した児童書を紹介する事例も登録されており、鳴く虫が科学の入口として扱われてきたことがうかがえる。声を「音楽」として愛でる文化と、発音機構を解剖学的に記述する科学が、同じ対象の上で長く並走してきたのである。

もう一歩先

鳴き声が気温に左右されるという性質は、観察を数値化する糸口になる。国立国会図書館のレファレンス協同データベースが引く資料では、気温によって周波数・翅を震わす周期・節回しが変わるとされている。つまり同じ個体でも、暑い晩と涼しい晩では違う歌に聞こえるということだ。温度計を横に置いて、同じ場所の同じ種類の声を数日続けて録音すれば、気温と鳴き方の関係を自分の手で確かめられる。十五度以下では鳴かなくなるという記述も、晩秋に向けて検証できる仮説になる。一方で、注意しておきたい点もある。鳴く虫はスズムシだけを指す言葉ではなく、コオロギやマツムシなど複数の種の総称として使われる。種が違えば摩擦器の細部も歌の構造も異なるため、ひとまとめに語ることはできない。また「虫の音を楽しむのは特定の国の人だけだ」といった説明が語られることがあるが、こうした主張は学術的に決着していない。声の聞き分けは文化としても科学としても面白いが、断定を急がず、観察できることと分かっていないことを分けておく姿勢が、この分野ではとりわけ大切になる。

🌱 ためしてみよう!3択クイズ

本文をよんでこたえてみよう。タップでせいかいがでるよ。

Q1. 秋の虫が音を出すのに使っているのはどこ?
こたえ:前ばね
東京大学の解説によると、オスの前ばねには「やすり」のようなギザギザと、そこにこすれる部分があります。この二つをこすり合わせてはねをふるわせ、音を出しています。のどで声を出しているのではありません。
Q2. 一回こすって出た音のことを何という?
こたえ:シラブル
摩擦器が一回こすれて出た音を「シラブル」といいます。そのシラブルがいくつも組み合わさると「チャープ」になります。わたしたちが聞いている鳴き声は、小さな音のかたまりが集まったものなのです。
Q3. 気温が下がると、鳴き声はどうなる?
こたえ:高さやテンポが変わる
虫は変温動物で、まわりの気温によって体温が変わります。国立国会図書館の資料では、気温によって周波数や翅を震わす周期、節回しが変わるとされ、十五度以下では鳴かなくなるとも記録されています。

👤 大人のちょっとした雑学

鳴き声は「シラブル」で数えられる

鳴く虫の音は感覚的な擬音ではなく、単位を持つ構造として記述される。摩擦器が一回擦れて出る音がシラブル、それが束ねられたものがチャープだ。虫の声を波形として眺めると、この階層がそのまま見えてくる。擬音語しか持たなかった耳が、一気に分析的になる瞬間である。

勝利宣言の歌がある

雄コオロギの歌は求愛用だけではない。東京大学の解説には、別の雄と喧嘩して勝った後に発する闘争歌が挙げられている。誘引歌・求愛歌・闘争歌という三種の使い分けは、単一の摩擦器から異なる社会的メッセージを打ち分けているということだ。楽器は一つ、レパートリーは複数である。

虫の声は気温計になる

変温動物である虫は、気温がそのまま体温になる。国立国会図書館のレファレンス事例が引く資料では、気温によって周波数・翅を震わす周期・節回しが変わり、十五度以下では鳴かなくなるとされる。秋の夜、声が細くゆっくりになったと感じたら、それは体感ではなく物理である。

🔬 とことん深掘り:読書ガイド

読み順ガイド(やさしい→専門)

  1. 鳴く虫図鑑(日本の直翅類・写真と音声付き)
    まず種を聞き分けられるようにする段階。コオロギ・スズムシ・マツムシの声と姿を対応づけておくと、以降の生態・行動の議論がすべて具体化する。
  2. 昆虫の行動学入門(動物行動学の教科書)
    誘引歌・求愛歌・闘争歌という信号の使い分けを、コミュニケーション理論の枠組みで捉え直せる。歌の役割を「意味」でなく「機能」で読む視点が得られる。
  3. 生物音響学の基礎(動物の発音と聴覚)
    摩擦発音の物理と、受け手側の聴覚器の対応を扱う。周波数や振動周期が気温で動くという現象を、音響と生理の両側から理解できる。
  4. 昆虫神経行動学の専門書(コオロギをモデル動物として)
    コオロギは神経行動学の代表的モデル動物である。歌のパターンを生み出す中枢神経回路まで踏み込むと、発音が「構造」だけでなく「制御」の問題でもあると分かる。

さらに進む方向

  • 地域の自然観察会や博物館の「鳴く虫を聞く会」に参加し、種ごとの声を実地で聞き分ける
  • 録音アプリとスペクトログラムでシラブルとチャープの階層構造を自分の耳と目で確認する
  • 気温を同時記録し、周波数・テンポと気温の関係を自作データで検証する
  • コオロギを用いた神経行動学の総説論文をたどり、歌のパターン生成回路の研究史を追う
  • 国立国会図書館レファレンス協同データベースで「鳴く虫」を検索し、飼育・文化史の一次資料にあたる

もっと詳しく:しくみのながれ

  1. STEP 1
    オスの前翅に鑢と摩擦片がそなわる
  2. STEP 2
    二つを擦り合わせて翅を振動させる
  3. STEP 3
    一回の擦りでシラブルが生まれる
  4. STEP 4
    シラブルが集まりチャープになる
  5. STEP 5
    誘引歌・求愛歌・闘争歌を使い分ける
  6. STEP 6
    気温が下がると周波数や節回しが変わる
  7. STEP 7
    十五度以下では鳴かなくなるとされる

ことばのメモ

摩擦器
はねをこすって音を出す仕組み
はねのこまかいギザギザ
シラブル
一回こすって出た音の単位
チャープ
シラブルが集まった鳴き声
変温動物
気温で体温が変わる動物

よくある質問

メスは鳴かないの?
鳴き声を出す摩擦器は前翅にそなわった構造で、東京大学の解説では雄がこれを擦り合わせて発音するとされています。鳴くのは基本的にオスです。
オスの鳴き声は何種類あるの?
東京大学の解説では、雌を呼ぶ誘引歌と求愛歌のほかに、別の雄との闘争に勝った後に発する闘争歌が挙げられています。目的ごとに歌を使い分けています。
寒くなると鳴かなくなるって本当?
国立国会図書館のレファレンス事例が引く資料には、十五度以下になると鳴かないという記述があります。虫は気温で体温が変わる変温動物だからです。
気温で鳴き声のどこが変わるの?
同じ事例で引かれた資料では、周波数、翅を震わす周期、節回しの三つが変わるとされています。同じ虫でも夜の気温で聞こえ方が変わります。

学びのタネ

この問いに関連する本・実験・サービスのご紹介です。

家でできること

  • 同じ場所の虫の声を数日つづけて録音し、そのときの気温もメモして聞きくらべてみよう。
  • セミの鳴き方とくらべてみよう。音の出しかたがどうちがうか、図鑑で調べると発見があるよ。
  • 夜の散歩で声のする方向をさがし、どこで鳴いているか地図に印をつけてみよう。

おとな向けに:新書・実用書

とことん深く:専門書・古典

読み放題・聴き放題

家でも教室でも、学びを深める

※ 当サイトは Amazonアソシエイトおよび A8.net のアフィリエイトプログラムに参加しており、適格販売により収益を得ています。

出典・参考文献

  1. 東京大学先端科学技術研究センターコオロギの特徴的行動|Invertebrate Brain Platform 参照 2026-08-23
  2. 国立国会図書館「スズムシ・コオロギは気温により鳴き方が違う」と聞いたことがあるが、そのことについて書かれた資料を探している|レファレンス協同データベース 参照 2026-08-23
  3. 国立国会図書館スズムシがどうやって鳴くのかが分かる児童書を紹介してほしい|レファレンス協同データベース 参照 2026-08-23

出典・正確性ポリシー:詳しく読む