赤とんぼはどうして秋になると赤くなるの?

公開:2026-08-23 更新:2026-08-23 読了 約6分

図解

1 春先 卵がかえり、ヤゴとして水中で育つ 2 6〜7月 ヤゴから成虫になる(羽化した当初は黄色) 3 アキアカネは高原へ避暑・ナツアカネは平地に残る 4 8月末〜9月 オスの体色が真っ赤になる 5 色素の変化 オモクロームが酸化型(黄)→還元型(赤)へ 6 9月後半〜11月 産卵し、やがて一生を終える

図解:問いを6ステップで読みとく流れ(自動生成)

体の中の色素が酸化型から還元型に変わって、黄色から赤色になるから。

秋の空を飛ぶ赤とんぼ。じつは、生まれたときから赤いわけではありません。産業技術総合研究所さんぎょうぎじゅつそうごうけんきゅうじょによると、アカトンボは羽化した当初は黄色です。主に大人になったオスが、あざやかな赤色になります。アキアカネやナツアカネの場合、だいたい八月の終わりから九月ごろに、オスの体が真っ赤になります。メスは一部分が赤くなることはありますが、オスほど真っ赤にはなりません。ではどうして色が変わるのでしょうか。体の中には色素しきそがあります。オモクロームという名前の色素です。この色素には二つのすがたがあります。酸化型さんかがたは黄色、還元型かんげんがたは赤色です。オスは、この色素をほとんど全部、赤いすがたに変えてしまいます。だから真っ赤に見えるのです。新しい色をどこかからもらってくるのではありません。もともと持っている色素のすがたを、自分で変えているのです。オスとメスで色がちがうのも、この変え方がちがうからです。メスは三わりくらいを黄色のまま残しています。秋の田んぼでオスとメスをくらべてみると、ちがいがよくわかります。

アカトンボの赤は、絵の具を足した色ではない。産業技術総合研究所が二〇一二年に発表した研究によれば、動物が色を変化させる方法は普通三パターンある。酵素を使って新しい色素を自分の中に作る、餌から色素を取り込む、体の中に持っている色素を表面に移動させる、の三つだ。ベニザケが繁殖期に筋肉の色素を皮膚へ移すのが三番目にあたる。ところがアカトンボは、そのどれにも当てはまらなかった。同研究所の解説によると、アキアカネのオスは、オモクロームという色素が、酸化型から、ほぼ百パーセント還元型色素へと変化して赤くなっている。オモクローム色素は、酸化型は黄色で、還元型は赤色になる色素だったのだ。メスは三割くらいを酸化型のまま残しているので、それが雌雄の色の違いとして現れる。体内の色素を酸化型から還元型に変えることで色を変化させる。これが、動物で初めて見つかった第四のパターンである。

仕組みの科学

赤とんぼの体色変化を担うのはオモクローム系色素である。産業技術総合研究所の発表によれば、オモクローム系色素の酸化還元反応によって、体色が黄色から赤色に変化する。アキアカネ、ナツアカネ、ショウジョウトンボの三種類を調べたところ、成熟オスだけ還元型オモクローム系色素の割合が顕著に高かったという。同研究所の解説では、アキアカネのオスはこの色素が酸化型からほぼ百パーセント還元型色素へと変化して赤くなり、メスは三割くらいを酸化型のまま残しているため、それが雌雄の色の違いとして現れると説明されている。注目すべきは、この変化が単なる見た目の問題では終わらないことだ。同発表によれば、成熟オスには抗酸化物質が多く含まれることが示され、赤くなったトンボの細胞は還元型色素によって抗酸化状態となっている。色が変わるということは、体内の化学的な状態そのものが変わるということなのだ。研究者は、還元型の色素を蓄えている状態を、植物でいえばビタミンCをたくさん蓄えて抗酸化状態になって紫外線から身を守る状態に似ている可能性があると語っている。色は結果であり、本体は体内環境の切り替えである。

歴史と発見

この発見が驚きをもって迎えられたのは、既存の枠組みに収まらなかったからだ。産業技術総合研究所の解説によれば、動物が色を変化させる方法は普通三パターンあるとされてきた。何かしらの酵素を使って新しい色素を自分の中に作ってしまう方法、餌を食べて餌から色素を取り込んでいく方法、そしてもともと体の中に持っている色素を表面に移動させる方法である。三番目の例として、鮭は繁殖期になると赤い筋肉の色素を皮膚に移動させる。フラミンゴの色が餌に由来するのは二番目にあたる。ところがアカトンボは、これらのパターンには入らなかった。もともと体の中に持っている色素を、酸化型から還元型に変えることで色を変化させる。この第四のパターンが、二〇一二年に発表された論文の時点で、動物において新しい発見だと言われたのである。研究は二橋亮研究員と深津武馬研究グループ長らのチームによるもので、身近な里山の昆虫から動物界の常識を更新した仕事だった。誰もが子どものころから見ている赤とんぼに、まだ知られていない化学が隠れていたのだ。

もう一歩先

赤くなる意味については、いまも議論が続いている。産業技術総合研究所の解説によれば、従来、赤い色は繁殖に重要で婚姻色のような役割があると考えられてきた。ただし、トンボは通常オスがメスを選び、オスがメスを捕まえて交尾する。そのためメスにとっては色がオスとメスを見分ける手立てになるという側面もある。さらに同研究所の発表は別の可能性を示す。オスのアカトンボが日向に留まって縄張りをつくる際に、紫外線による酸化ストレスを軽減するという機能も果たしているのではないか、というものだ。赤い体は、アピールであると同時に日焼け止めでもあるかもしれない。観察の視点としては、生活史も面白い。同解説によれば、アキアカネとナツアカネはどちらも六月から七月にかけてヤゴから成虫になる。ところがアキアカネは暑い時期には避暑に出かけるため、夏には人里であまり見かけない。高原で夏を過ごした後、涼しくなると里に下りてくる。一方ナツアカネは暑い時期にも平地の林などに残るので、夏にも人里でよく見られる。どちらも九月後半から十一月にかけて卵を産み、卵で冬を越して、翌年の春先に孵ってヤゴになる。約一年で一生を終えるのだ。

🌱 ためしてみよう!3択クイズ

本文をよんでこたえてみよう。タップでせいかいがでるよ。

Q1. アカトンボは羽化したばかりのとき、何色?
こたえ:黄色
産業技術総合研究所によると、アカトンボは羽化した当初は黄色です。主に成熟したオスがあざやかな赤色になります。アキアカネやナツアカネでは、八月末から九月ごろにオスの体が真っ赤になります。
Q2. 赤くなるとき、体の中では何が起きている?
こたえ:色素が酸化型から還元型に変わる
オモクロームという色素は、酸化型は黄色、還元型は赤色になります。アキアカネのオスは、この色素をほぼ百パーセント還元型に変えて赤くなります。新しい色素を作るのでも、食べ物からとるのでもありません。
Q3. アキアカネは夏をどこで過ごす?
こたえ:すずしい高原
産業技術総合研究所の解説によると、アキアカネは暑い時期には避暑に出かけます。高原で夏を過ごした後、涼しくなると里に下りてきます。だから夏の人里ではあまり見かけないのです。

👤 大人のちょっとした雑学

動物で「第4の色変化」だった

動物の色変化は、酵素で新しい色素を作る・餌から取り込む・体内の色素を表面へ移す、の3パターンが知られていた。アカトンボはそのどれでもなく、持っている色素を酸化型から還元型に変えていた。2012年の発表時点で、動物において新しい発見だと言われた仕事である。

メスは3割を黄色のまま残す

アキアカネのオスはオモクロームをほぼ100%還元型へ変えるが、メスは3割くらいを酸化型のまま残している。この差が雌雄の色の違いとして現れる。同じ色素、同じ体、違うのは酸化還元の比率だけ。性差が化学平衡の数字として表れている例だ。

赤は日焼け止めかもしれない

赤い体は婚姻色と考えられてきたが、産総研は別の可能性を示す。オスが日向に留まって縄張りをつくる際に、紫外線による酸化ストレスを軽減するという機能だ。還元型色素を蓄えた状態は、植物がビタミンCで抗酸化状態を作るのに似ている可能性があるという。

🔬 とことん深掘り:読書ガイド

読み順ガイド(やさしい→専門)

  1. トンボ図鑑(日本のトンボ・写真検索式)
    アカトンボが総称であることを実感する段階。アキアカネ・ナツアカネ・ショウジョウトンボを見分けられると、以降の研究記述が具体化する。
  2. 昆虫の色彩学入門(構造色と色素色)
    色素色と構造色の違い、オモクローム・メラニン・プテリンといった色素群の位置づけを押さえる。酸化還元による変色の特異性が際立つ。
  3. 生化学の教科書(酸化還元と抗酸化)
    酸化型と還元型という言葉を分子レベルで理解する。抗酸化状態が生体にとって何を意味するかが分かると、赤化の機能仮説を評価できる。
  4. 昆虫生態学の専門書(生活史戦略と季節適応)
    アキアカネの避暑移動という季節適応を、生活史戦略の理論枠組みで読む。年1世代型の昆虫がどう季節に同調するかが見えてくる。

さらに進む方向

  • 産業技術総合研究所のプレスリリース原文と、その基になった原著論文を照合して読む
  • 地域の水田・ため池で9月から11月まで定点観察し、体色の変化を写真で時系列記録する
  • オモクローム系色素の生合成経路を昆虫生化学の総説で追う
  • アキアカネの個体数減少に関する調査報告を、原因の断定を避けつつ複数機関の資料で比較する
  • 赤化の機能(婚姻色仮説と抗酸化仮説)をめぐる議論の現在地を、研究レビューで確認する

もっと詳しく:歴史と時系列

  1. 春先
    卵がかえり、ヤゴとして水中で育つ
  2. 6〜7月
    ヤゴから成虫になる(羽化した当初は黄色)
  3. アキアカネは高原へ避暑・ナツアカネは平地に残る
  4. 8月末〜9月
    オスの体色が真っ赤になる
  5. 色素の変化
    オモクロームが酸化型(黄)→還元型(赤)へ
  6. 9月後半〜11月
    産卵し、やがて一生を終える
  7. 2012年
    産総研が第4の体色変化メカニズムを発表

ことばのメモ

オモクローム
トンボの体にある色のもと
酸化型
黄色に見えるときのすがた
還元型
赤色に見えるときのすがた
成熟
大人のからだになること
ヤゴ
水の中でくらすトンボの子ども

よくある質問

赤とんぼは生まれたときから赤いの?
ちがいます。産業技術総合研究所によると、アカトンボは羽化した当初は黄色で、主に成熟したオスが鮮やかな赤色になります。色が後から変わるのです。
メスは赤くならないの?
同研究所の解説では、メスは三割くらいを酸化型のまま残しているため、一部分が赤くなる個体もいますが、オスほど真っ赤にはなりません。
赤くなるのはいつごろ?
産業技術総合研究所の解説では、アキアカネやナツアカネの場合、だいたい八月末から九月ぐらいになるとオスの体色が真っ赤になるとされています。
なぜ赤くなると役に立つの?
産業技術総合研究所は、日向で縄張りをつくる際に紫外線による酸化ストレスを軽減する機能も果たしている可能性を示しています。断定はされていません。
夏に赤とんぼを見かけないのはなぜ?
同研究所の解説によると、アキアカネは暑い時期には避暑に出かけます。高原で夏を過ごした後、涼しくなると里に下りてくるためです。

学びのタネ

この問いに関連する本・実験・サービスのご紹介です。

家でできること

  • 同じ場所のトンボを九月から十一月まで観察し、体の色がどう変わるか写真で記録してみよう。
  • オスとメスの色をくらべて、どこがどれだけ赤いかスケッチに色をぬって残そう。
  • 図鑑で「アキアカネ」と「ナツアカネ」を調べ、夏にどこにいるかのちがいを表にしてみよう。

おとな向けに:新書・実用書

とことん深く:専門書・古典

読み放題・聴き放題

家でも教室でも、学びを深める

※ 当サイトは Amazonアソシエイトおよび A8.net のアフィリエイトプログラムに参加しており、適格販売により収益を得ています。

出典・参考文献

  1. 産業技術総合研究所アカトンボがどうして赤くなるのかを解明 参照 2026-08-23
  2. 産業技術総合研究所第23回 赤トンボはなぜ赤い?動物で初めて見つかった驚きのメカニズム 参照 2026-08-23

出典・正確性ポリシー:詳しく読む