図解
図解:問いを6ステップで読みとく流れ(自動生成)
訓令式とヘボン式、日本語向けと外国人向けで別々に作られたから。
日本語をアルファベットで書く方法を「ローマ字」といいます。じつはローマ字には「訓令式」と「ヘボン式」の2つのしゅるいがあり、書き方が少しちがうのです。
たとえば「しんぶん」は、訓令式では「sinbun」、ヘボン式では「shinbun」と書きます。「ち」は、訓令式では「ti」、ヘボン式では「chi」となります。同じことばなのに、2つのつづり方があるのですね。
なぜこうなったかというと、それぞれ作られたもくてきがちがうからです。訓令式は日本の音のしくみをきれいにならべて書くために作られました。あ行、か行、さ行というふうに、行ごとに同じ文字をつかうので、日本語のパターンをおぼえやすい形になっています。
いっぽうヘボン式は、江戸時代の終わりごろに、アメリカ人の医者ヘボンさんが、日本語の音を英語を話す人に伝えるために作りました。「chi」や「shi」は、英語けんの人が読んでも、日本語の音に近づくようにくふうされているのです。
パスポートや道路の名前はヘボン式、学校の教科書では両方を教えるようになっていて、場面に合わせて使い分けられているのですよ。
ローマ字表記は明治期から複数方式が並立してきたが、現在は訓令式とヘボン式が主流だ。訓令式は昭和12年(1937年)に内閣訓令で制定された日本音韻に基づく体系で、五十音を規則的に対応させる点が特徴。一方ヘボン式は幕末の宣教師ジェームス・ヘボンが編んだ『和英語林集成』(1867年)で普及した英語話者向けの表記法で、日本の音を英語に近い綴りで写す。
令和7年(2025年)12月22日、内閣は『ローマ字のつづり方』を71年ぶりに改定し、原則ヘボン式基調を軸とする新方針を告示した(内閣告示第4号)。これはパスポート・道路標識・氏名表記の多くがヘボン式で運用されてきた実態に合わせたものだ。訓令式が廃止されるわけではなく、教科書等では両方式を扱うことが継続される。国際化の進展を映した半世紀ぶりの制度更新なのだ。
仕組みの科学
訓令式とヘボン式のちがいは、「日本語の音韻構造をどう捉えるか」という言語学的立場のちがいに根ざしている。訓令式は日本語の音を「音素」の単位で捉え、あ行はa/i/u/e/o、さ行はsa/si/su/se/soと規則的に対応させる。ローマ字表を眺めると子音行と母音列の格子が美しく揃うのが特徴で、日本語話者にとっては音の仕組みを直感的に理解しやすい体系だ。
いっぽうヘボン式は、実際の発音(音声)を英語話者が読んで近い音を出せる綴りを重視する。「し」は英語の shi 音に近いので shi、「ち」は chi、「つ」は tsu と表す。訓令式では si/ti/tu となる部分だが、音声学的にはヘボン式のほうが実際の口の動きに近い。英語圏の宣教師ヘボンが日本人の発音を細かく観察して作った歴史的経緯を反映している。
学術的な言語学記述では音素表記の訓令式が使われる場面もあり、日本語教育の初級テキストでは音の規則性を教えるのに訓令式が用いられることがある。国際化・観光対応の場面ではヘボン式が優勢で、目的に応じて使い分ける「二重体系」が定着してきた。文化審議会は使用実態を継続的に調査し、方式選択の合理的根拠を蓄積している。
歴史と発見
ローマ字表記の歴史は16世紀に遡る。1591年頃のキリシタン宣教師が『日葡辞書』などでポルトガル語式のローマ字を用いたのが最初期の記録だ。江戸時代は鎖国のため広がらず、開国後の幕末から急速に体系化が進んだ。
1867年、米国長老派の宣教師ジェームス・カーティス・ヘボン(1815-1911)が『和英語林集成』を刊行し、英語話者向けの表記法を確立した。これがヘボン式の原型で、以降パスポート・地名表記の標準として普及していく。
いっぽう日本語の音韻構造を重視する訓令式は、明治期の田中舘愛橘らが提唱した「日本式」を土台に、昭和12年(1937年)の内閣訓令「国語ノ羅馬字綴方統一ニ関スル件」で公式制定された。戦後、昭和29年(1954年)の内閣告示『ローマ字のつづり方』で訓令式を第1表・ヘボン式を第2表と位置づけ、両方式の併存が定式化された。
そして令和7年(2025年)12月22日、文化審議会国語分科会の答申を受けて内閣告示第4号が発出され、71年ぶりの改定に至る。実運用ではヘボン式が圧倒的多数を占めていた実態を反映し、原則ヘボン式基調へと大きく軸足を移した歴史的な制度更新だ。
もう一歩先
2025年12月の改定は、単なる表記変更にとどまらない社会的意味を持つ。訪日外国人が3000万人規模に達した2020年代、地名・氏名・案内表示のローマ字が英語話者に読みやすいことは国際観光・ビジネスの前提となっていた。パスポートも1989年(平成元年)以降ヘボン式基調で発行されており、実務は先行してヘボン式に統一されていた。今回の改定は制度が実態に追いついた形と言える。
一方で、訓令式が完全に消えるわけではない。文化庁の告示文には、教科書等で日本語音韻の学習用に訓令式を継続的に扱うことが記されている。学校教育では小学3年生でローマ字を学ぶが、改定後は児童がどちらの方式を先に学ぶかについて教育現場での議論が続いている。
言語学的には、ローマ字は日本語話者・非母語話者・機械処理のどれを対象にするかで最適解が変わる。近年は日本語入力ソフト(IME)が両方式に対応し、ユーザーがどちらでも入力できる。国際的な地名データベース、外国人の氏名表記、機械翻訳の前処理など、応用場面ごとに使い分ける柔軟な運用が今後の主流となりそうだ。文字と音の対応を巡る議論は、日本語の国際化の縮図でもある。
もっと詳しく:歴史と時系列
- 1591年頃キリシタン宣教師がポルトガル語式ローマ字で日本語を表記
- 1867年ヘボン『和英語林集成』刊行・ヘボン式の原型が成立
- 1937年(昭和12年)内閣訓令で訓令式を公式制定
- 1954年(昭和29年)内閣告示『ローマ字のつづり方』で両式併存を定式化
- 1989年(平成元年)パスポートがヘボン式基調で発行開始
- 2025年(令和7年)12月22日内閣告示第4号で71年ぶり改定・ヘボン式基調へ
ことばのメモ
- 訓令式
- 1937年に制定された日本音韻の方式
- ヘボン式
- 幕末の宣教師が編んだ英語向けの方式
- 内閣告示
- 内閣が公式に定める国の基準
- 音素
- 意味を区別する言葉の最小音単位
- 田中舘愛橘
- 訓令式の元となる日本式を提唱した人
よくある質問
訓令式とヘボン式、どちらが正しいのですか?
パスポートの名前はどの方式で書きますか?
小学校ではどちらを習いますか?
なぜ2種類も残しているのですか?
学びのタネ
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家でできること
- 自分の名前を訓令式とヘボン式の両方で書き比べて、どんな違いがあるか観察してみよう。
- 駅名の看板やパスポートのローマ字を見て、それがどちらの方式かを見分けてみよう。
- 文化庁のサイトで令和7年内閣告示『ローマ字のつづり方』の原文を読んでみよう。
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出典・参考文献
- 文化庁ローマ字のつづり方(内閣告示・内閣訓令) 参照 2026-07-23
- 国立国語研究所 ことば研究館ローマ字にはどんな種類がありますか 参照 2026-07-23
- 国立国会図書館 レファレンス協同データベースローマ字表記の歴史と種類に関するレファレンス 参照 2026-07-23
- 文部科学省小学校学習指導要領(国語) 参照 2026-07-23
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